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記事No 844
タイトル その後の二人
投稿日 : 2018/05/04(Fri) 23:18:57
投稿者 渚GM
参照先
竜仕王国デュハーン、その首都アリスヘイム。都市の片隅、貧民街の一角にある、竜を祀る教会に併設された孤児院。
亜人とのハーフという理由から、忌み嫌われる子供たちですらも平等に受け入れるその孤児院では、今日も元気な声が響き渡る。
しかしその中に、今までと異なる二つの色が混じるのであった。

「ルート―!稽古しよー!」
「今日こそ負けないからねー!」
「ん…………望むところ」
木製の剣と盾を携え集まってきた子供たちに、ハーフウェアウルフの少年が柔らかい笑みで応じる。
以前は決して彼らの誘いに応じず、昼夜問わず自身の鍛錬にのみ明け暮れていた少年は、冒険者たちと出会い、集団の力を知り、憧れていた兄とは異なる技を学んだ。
基礎に忠実とはいえ、それぞれ個性ある剣筋や技をもつ子供たちとの稽古もまた、彼にとっては学びの場となりつつある。
一人では決して知り得なかったことを学び、道を示してくれた冒険者たちへの感謝を胸に抱き。今日もまた、憧れた背中に追いつくため剣を振るうのであった。

そして、もう一人。
子供たちの元気な声の中に、透き通った歌声が響く。その歌声は未だ拙さを残すものの、聞く者を魅了する何かを秘めていた。
冒険者たちとの出会いで、武器を持てずとも誰かを助けられることを知ったハーフドラゴンニュートの少女は、同じ歌姫の道を志す。
先達である冒険者に師事し、教会を訪れる詩人の教養のある者に学び、たった一人の聖歌隊として経験を積んだ彼女の姿は、小さいながらも立派な歌姫である。
それでも、冒険者の姿はまだ遠い。あの時のように、誰かを支える歌声には、まだ。
故に、彼女は今日も努力を欠かさない。
「ふぅ………。もうちょっと体力付けなきゃなぁ………。それに、音律もたまに不安定だし……」
「よう、やってるな。あの時よりずいぶんうまくなったじゃねぇか」
「(「゚Д゚)「」
「なっ!なななななっ!なに勝手に聞いてんのよバカアアアァァっ!!!!!!」
「おっと――」
「(´;ω;`)」
足と同等以上の力を持つという、ドラゴンニュートの尻尾が空を切り、いつものように叩き付けられる。
目標を見つけ、異性へのトラウマも乗り越えた少女だが、相変わらず素直さだけは乏しいままだった。


数年後――。
孤児院出身の半狼の青年が、新たに騎士として任命される。彼は身分と種族の壁を、天才的な剣術で乗り越えたと噂された。
だが、彼はこう答える。
「才能じゃ、ない。努力と……協力。その、結果」
その姿に、恵まれない環境に甘んじる多くの者たちが勇気づけられ、それぞれの道を目指したという。

時を同じくし、半竜の娘が大勢の人々の前でステージに上がる。孤児院出身の彼女は、暗い過去など微塵も感じさせない明るい笑顔で、集まったファンたちを魅了する。
異例の経歴を持つ彼女は、歌姫を志したきっかけを聞かれ、こう答えた。
「私が立ち止まってた時に、踏み出す勇気をくれた人がいるの。その人の歌声に憧れて……かな。あとは、その……」
お兄ちゃんも背中を押してくれたから。その言葉は、誰の耳に届くこともなく、風にさらわれていった。

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