記事No | : 1422 |
タイトル | : すこし、あとのこと |
投稿日 | : 2021/05/11(Tue) 15:49:19 |
投稿者 | : 渚GM |
参照先 | : |
仕事を終えた冒険者たちを見送り、新たに国内に向かい入れた仲間を友の屯留する屋敷へと送り届けた紫苑は、天守へ続く襖を開ける。
「ただいまー。あら、クロウちゃんは?」
「お兄ちゃんならミヤコまで出張中だよー。将軍様に呼ばれて、私と入れ違いで」
「あらあら。だから桃花ちゃんは座布団を抱っこしてごろごろしてるのね」
「そうだよー!久しぶりにミヤコから帰ってきたからお兄ちゃん分をたっぷり補充しようと思ったのに!」
「あらあらあら。お姉ちゃん分じゃ代わりにならないかしら?」
返事を聞く前に、だらけ切っていた末妹の桃花を抱きあげ膝の上に乗せる。
国を護るため、目的を果たすためとはいえ、家族と離れミヤコや各国とへ出向き交渉に当たる妹を慈しむように抱きしめ甘やかす。
その様子をしばらく眺めていた次女の千草が口を開く。
「んで。姉貴、クロウがミヤコに呼ばれたってことは……」
「そういうことよー。千草ちゃん、軍備の方はどうかしら?」
「第一軍、第二軍はバッチリ練兵を済ましてあるぜ。陽狼衆は留守番。陰狼衆は第一軍だ」
「あらあら、盤石な体制ね。それと、向こうからも何人かお手伝いに来てくれるそうよ。第一軍に組み込めるかしら?」
「まぁ大丈夫だと思うぜ?たぶん兵共より強ぇだろうし」
「あとは時期を待つだけねー」
「そればっかりはアタシらじゃどうにもできねぇしな。まぁこっちはうまいことやっとくから、姉貴も桃花もちょっとは休めよ。碌に寝てねぇのが顔に出てるぞ?」
「あらあら、お姉ちゃんとしたことが……。家族の前だと油断しちゃうわね」
「ふわぁ……。じゃあ千草おねえちゃん、お昼寝してくるからお兄ちゃん帰ってきたら起こして……」
「いや、何日寝る気だよ!――ほれ、姉貴もちょっとは休め。その間はアタシがどうにかするからよ」
「そうねぇ……。それじゃ、可愛い妹の気遣いに甘えようかしら。クロウちゃんが帰ってきたら起こしてねー」
「姉妹でネタの天丼するんじゃねぇよ!!」
鋭いツッコミを放つも、二人は既に奥の寝所へ引っ込んでしまっていた。
一人残された千草は、天守から城下を見下ろす。
来る出征へ備え、訓練に励む大和国の兵士たち。その中で、他を圧倒するほどの鋭い太刀筋で刀を振るう男たち。
兵たちにも男たちにも、次の出征の意味は知らせている。それ故に、鬼気迫るほどの鋭さで刀を振るう。
「……ちゃんと生きて帰ってこいよ。全員な」
小さく呟き、千草は慣れない書類仕事に悪戦苦闘するのであった。
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