記事No | : 1348 |
タイトル | : 楽屋裏 |
投稿日 | : 2020/07/26(Sun) 13:45:32 |
投稿者 | : 渚GM |
参照先 | : |
「ふぅ……」
デュハーン国内を巡る初のライブツアー。最後の舞台を終え、少女は楽屋で小さく息を吐く。
一面を埋め尽くす観客。手を貸してくれた仲間たち。招きに応じてくれた家族。
彼ら全てを満たすことは出来ただろうか?――否。
「そんなこと考えちゃダメね。私の全力を尽くすのがやるべきことだもの」
そう。満たすことは目的ではない。己の全力を尽くした結果でなければいけない。
そして――振り返る。最後の楽曲。伝えたくて目を向けてしまった相手のことを。
「…………恋愛、じゃ……ないわね」
かつては一度、異性としてあこがれた血の繋がらぬ兄。冒険者として背中を追う中で抱いた感情は
「――憧れ」
「なにがだ?」
「ひゃああぁぁっ!!」
突如背後から聞こえた、思い描いていた兄の声に、咄嗟に尻尾を振りぬく。
速度もタイミングも申し分ないその一撃を軽々と躱される、懐かしい感覚。
「あ、アンタなんでここにいるのよ!?」
「…………」
言葉は返さず、彼は後ろにある楽屋の入り口を指す。
そこに立っているのは――ずっと。長い間。素直になれない自分から目を逸らさず、手を差し伸べ、支え続けてきてくれた。
――家族たち。
「ぁ…………」
話したいことも聞きたいこともたくさんある。けれど言葉が見つからない。
それでも、何も言わずに待ち続けてくれる家族へと告げた言葉は。
――ただいま
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